「もっと美しく弾いて」というアドバイス。
〈頭で描いている音〉を〈現実の音〉に変えるには、身体の感覚も重要。
「もっと美しく」
「流れるように」
「歌うように弾いて」
ピアノのレッスンでよく聞かれるこれらの言葉。
先生から言われている生徒さん自身も、そう弾きたいと思っていることが多いのではないでしょうか。
でも、どうすればそうなるのかが、分からない。
これは、多くの方が抱えている〈静かな苦しさ〉の一つのように思います。
抽象的な言葉と身体性
「もっと美しく」「歌うように」「楽しそうに」「リズムを感じて」
耳タコな方も多いはず⁈
問題は、これらを現実の音にするために、身体のどこをどう使えばいいのか…
それが伝わらなければ、生徒は「もっと気持ちを込めよう」と(結果的に)力むしかありません。
力めば力むほど、身体は固まるか、もしくは、それを無意識で回避するために
まるで踊っているかのようなオーバーアクションを起こしたりもします。
身体が固まれば音は響きを失います。
オーバーアクションは無駄な動きが多いため、レベルが上がるにつれ、
解決出来ない技術的な問題が浮上します。
結局「もっと美しく」の言葉は、宙に浮いたまま、気持ちだけ必死に、それを追いかけてピアノに
向かい合わないといけなくなる・・・
ピアノってどこで弾くの?
ピアノは、指で弾くものと思われています。確かに鍵盤に触れているのは指ですね。
でも実際には、全身で弾く楽器です。
指”だけ”で弾くというのは、少し強引な例えですが、生い茂る葉を一葉一葉を動かすようなもの。
つまり、木で例えるなら、指先は、細かく分かれた枝の先端や一枚一枚の葉。
その一枚一枚の葉を動かすのなら、木の枝の付け根を揺らせば簡単にはらはらと動いてくれます。
腕を動かしているのは、肩甲骨周りの筋肉や骨の動きです。
そこから指に対してアクションを起こせば、手だけで弾く負担は軽減されます。
さらに、上半身の土台となるのは、骨盤、脚です。骨盤から脚の状態は上半身に影響しています。
体格が華奢な人、身長があまりない人であれば尚更です。
つまり、足元から頭の先まで、すべてがピアノの音に関係しています。
たとえば現代人に非常に多い「巻き肩」。
肩が前に丸まった状態では、肩甲骨の動きにロックがかかります。すると、腕の可動域は狭まり、
必要以上に指や手首に負担がかかります。弾き続けていて、手や腕が痛くなるのだとしたら、
これがが原因のひとつかもしれません。
逆に、肩甲骨が自然に下がり、背骨が柔らかく整った状態で弾くと、指先に余計な力を入れなくても鍵盤が沈み、ピアノが豊かに鳴り始めます。音の純度が上がり、響きが広がる。
子どもの感性は、からだで育つ・・・身体性とは
上記の状況は、大人だけの話ではありません。
お子さまであるなら、さらにからだの状態は音に直結します。
緊張して肩が上がった状態で弾く子と、リラックスして全身が自由に動いている子では、出てくる音がまるで違います。
そして興味深いことに、からだが自由になると、音楽の表現も自由になります。
感性は、抽象的な言葉に促されるだけでなく、身体の内側から触発されうるのです。
保護者の方がピアノに期待するのは、弾けるようになることだけでしょうか?
感性が豊かに育つこと、自分の内側にある表現を外に出せるようになること。
からだの使い方、つまり昨今よく耳にする【身体性】は、音楽教育の核心のひとつと私は考えています。
「なぜそうなるか」が分かると、練習が変わる。
抽象的な指示ではなく、「肩甲骨をここの部分から」「腕をこう旋回させ、その時の指はこう使って」
「骨盤はこう」など、具体的な言葉とその動きを実際に手を添えてサポートすると
生徒さんは何が起きたのかと不思議な顔をしたり、中にはいぶかしげな表情をしながらも
操り人形状態となります。笑
ご自身にとって、その動きが初めての感覚だからです。
ですが、驚くほどの変化が起きます。そして、
その瞬間に出てきた音が、今までご自身が出したことのない音だったりすると、
弾いたご本人が一番驚いています。笑
「こんな音が自分から出るんだ」という体験は、ピアノへの向き合い方を根本から変えていきます。
練習が楽しくなるのは、上手くなったからではありません。
自分の音が変わった瞬間を、知っているからです。
誰もが持つ音楽への憧れを、現実の音に。
美しい音楽を聴いて胸が震えた経験は、誰にでもあります。あんな音が出せたら、と夢見たことも。
その憧れを現実の音に変えるのは、才能だけではありません。
からだの使い方と感性と結びつけていくこと。
あなたの中にあるファンタジーがさらにかきたてられ、音として紡がれていくのだとしたら、
とてもわくわくしませんか?



